第10章 形単影隻
しばらくしてハヨンたちの席に置かれていった料理を口にしながら、三人は周囲の会話を聴くために耳をそばだてていた。正直言って人の話に注意を向けているので、料理を味わって食べていない。店の去り際に、この店の料理はそこそこ美味しかっただろうか、と思い返そうとしたが、思い出せなかったほどである。
「どうしたんだよ、そんなにため息ついて。」
「ああ?そんなに分かりやすかったか、すまんな。いやな、昨日俺ん家の近くにやつが現れてさ。俺ん家にはまだちびがいるから、何かあって襲われたりはしないかと怖くてよ。」
「ああ…やつね。現れたら二、三日はそこらをうろちょろしてるもんな」
「あーっ、毎回やつが来る度にびびらやきゃなんねぇ毎日を送るとかほんともううんざりだ」
そう言って頭頂部の髪の毛が少し寂しい男が頭をかきむしった。横の白髪混じりの男は苦笑いを浮かべていた。
ハヨンはリョンヘとムニルに目配せする。二人も聴いていたらしく、目線を合わせて頷いた。
その後、先程話していた男性たちは、ぼそぼそと何か話してはいるものの聴こえなかったので、違う面々に耳を傾ける。
「何であんなやつがこの町に住み着くようになったのかしら、それにうろちょろするくせに郡の外には出ていかないし。」
「そうよねぇ、いっそのこと追い出せないかしら」
「だめよ、あの爪見たでしょ?私たちあいつに叩かれただけで大怪我よ。手を出したら危ないじゃない」
やはり関係のない話が圧倒的に多いものの、白虎についての話題もある上、よそ者には話さないであろう過激な内容もあるにはあった。