第10章 形単影隻
その上下手に目立つと、王都にいる反逆者の耳にも入るかもしれない。できるならムニルの言っている方法で済ませた方が安全だし手間もかからない。
(王都の城ではリョンヤン様を守るための技や知識だけがあれば良かった。でも、これからはもっと他の物も求められる…。学んで機転をきかせれるようにならないと…)
ハヨンは前を歩き出したムニルの背を追いながらそう後悔していた。
「ムニルは情報集めとか、偵察の類いに詳しいのか?」
一方リョンヘはそうムニルに問いかける。ムニルは微笑んで
「私はね、そう言った情報の集まりやすい場所にいたのよ。裏の世界と密に接する場所にね。だから、情報を手にいれやすい場所は何となくわかる。それだけよ」
と答えた。その意味ありげな笑みは、はっと目を惹くほど艶やかで、彼のその魅力は、その裏の世界にいたからこそのものなのだろうと察せられた。
「ここね…」
ムニルが足を止める。そこは少し古めかしい料理屋だった。覗いてみるとそこそこ繁盛していて、至るところの席に客が座って話し込んでいる。
ハヨンたちは店の端の席に座った。彼女たちに気づいた女将が近づいてきて注文を尋ねる。ハヨンたちは適当に品書きに書いていた料理を注文した。
「私たちはあまり大声で話してはだめよ。逆に私たちの話を聞かれていたらまずいし、そもそも町の人たちの話を盗み聞きするためにここに来たんだから。」
ムニルの念押しに二人は頷いた。