第10章 形単影隻
「それにしても…。こんなに年老いた私を連れて行こうと考えたのはなかなかひどい話じゃないか。」
老婆は杖をつきながらハヨンとリョンヘの後ろを歩く。
「そう言われても…私はあなたのために簡易の輿を用意したじゃないですか。それを断ったのはあなただろう?」
「だって、あんなのに担ぎ上げられるなんて恥ずかしいじゃないか。」
そう言いながらも、息一つ乱さない彼女は一体何者なのだろう。リョンヘよりも体力があるなんて並大抵ではない。
「そんなこと言って、ちっとも疲れてなさそうなのが、チェヨンさんの謎なのよねぇー。チェヨンさん、今まで何してきたの?」
そう笑いながら突っ込んだ話をできるのは、ムニル特有の口調と雰囲気のせいかもしれない。
「…何って、畑や田んぼをせねばならん歳まで働いて、あとは気ままに生きてたのさ。」
「ふーん、気ままにねぇ…」
老婆の不思議なところに気がついているものは少なくないだろう。しかし、彼女の蓋を開けてみると、とんでもないことが明るみに出るような気がして、みな深くまで踏み込めないのかもしれない。
「もう少しで赤架です!」
道の先を見ると、たしかに街並みがほんの少し見える。
「周りには誰もいないか。」
「私が先に偵察してきます。全員茂みに隠れててください。」
ハヨンは目立たぬように笠を深く被り、山道を抜けて行く。
木立ちを越えて、明るい日の当たる場所に出る直前、ハヨンは木の陰に隠れて辺りを見渡した。兵士などの差し支えのある相手はいないことがわかる。
ハヨンは元来た道を歩いて皆の元へと戻って行った。