第10章 形単影隻
ハヨン達は、猛から赤架へと連なっている山にいた。反逆者からの追っ手は今まで来たことがなかったが、念のために、群の関所を越えずに群の境を越えるためである。
「本来なら私たちはここから群を越えようとする者達を取り締まるべき立場なはずなのだがな…」
少し息のあがった様子を見せているリョンヘは自嘲気味に笑った。
「仕方ありません。またいつか、あの城に戻った際、この抜け道について策を練りましょう。」
ハヨンはいつもの通り息を少しも乱さず答える。馬で移動をすると、周囲から不審がられるので、山の猛側の麓に馬を置いて行き、赤架側には歩いて行くことにしたのだ。
ちなみに置いて行った馬達は、麓に住んでいる民達に世話を頼んでいるので問題ない。
「私もそこそこ体力には自信があったのだがな。山は堪える。それにしても…お前には苦手なものがないのかと思うぐらい、何でも出来るな…。お前がへたったり、出来ないと困っているような姿を一度も見たことがない。」
「それはただ、王子が偶然見てないだけですよ。私にだって苦手なことの一つや二つありますし。」
少し悔しそうにしているリョンヘとは対照的に、ハヨンは涼しげな表情をしている。
「それはそれは…。お前の苦手なものが何か、とても気になるところだが…。」
「残念ながら、お教えできませんね。私がそれと遭遇した時までお待ちください。」
ハヨンはそうにっこり笑ってみせる。
実際のところ、ハヨンの苦手な物は、あまり日常的に現れるものではないので、取り繕えているのだ。そして、リョンヘに打ち明けたら、そんなものがと驚かれるのが恥ずかしくて言えないのである。