第9章 王子の休日
「ああ、よろしく頼む。」
また、彼があくびをした。ひょっとしたら、気が抜けて、今まで我慢していた眠気が一気に襲ってきたのかもしれない。
「おやすみなさい、いい夢を。」
寝所へと向かう彼にそう声をかけ、扉の前に立つ。しばらくして彼の寝所からは衣擦れの音さえも聴こえてこなくなったので、きっと深く眠っているのだろう、とハヨンは少し安堵した。
リョンヘが部屋から出てきたのはそれから二刻(一刻で一時間)ほど経ってからのことだった。
「ええ!?それで寝たの…?」
ハヨンは思った以上に早かった彼の休眠に戸惑いの色を隠せなかった。
「ああ、いつもよりは二刻も多く寝れたんだ。それで十分じゃないか。それにな、今日は全然仕事が無いから、疲れてないしなー。そんな状態で寝たってすぐ起きてしまうだろ。」
大きく伸びをしながらこたえるリョンヘの顔色は、前よりは良さそうに見えたので、悪いわけではないのだが、ハヨンとしてはめいっぱい休んで欲しいのだ。
「今日は俺の休息日なんだろ、なら息抜きなら何だっていいじゃないか。な、今から二人で出掛けないか?」
「え?」
思いもしない誘いに、ハヨンは目を瞬かせた。
「一度二人で町を歩き回ったことがあるだろう?あんな感じでさ、町の様子を見に行ってみよう。…まぁ、あれは荒れてる町の監視だったけどさ…」
どこまでもお忍びで町に行くのが好きな王子である。しかしそこが彼らしい所でもあるので、ハヨンはそんな彼が大好きだ。
「そうだね…。前は二人で結局悪党を引っ捕らえるとかなかなか物騒なことになってたし…。今回は町で楽しもう。」
ハヨンは頷く。そういえばリョンヘは寝入る前に着ていた服と今とは違っている。町に馴染めそうな格好になっているのは、もともとそのつもりだったのか。準備万端といった姿が、少し微笑ましくて笑みがこぼれた。