第9章 王子の休日
セチャンは城の中を移動していた。ふと外を見ると、城の裏門に向かって連れだって歩く男女がいた。
この城で女といえばハヨンとあの老婆しかいない。あのきびきびと歩く後ろ姿からするとハヨンだろう
(…ほう。ハヨンには恋仲の者でもいたのか。)
と、セチャンは少なからず驚いた。彼女の生真面目な性格から、仕事の場に恋愛を持ち込むとは思っていなかったからだ。
(でも待てよ…。今日はハヨンはリョンへ様に付きっきりのはずだ。…と言うことは!隣の男はリョンへ様!?)
セチャンは窓に飛び付く。衣装や髪型は違っているものの、あの背格好ならば間違いない。
(…。俺の勘違いか。でも二人はかなり親密だと前から思っていた…。いつかそうなる日が来ることもあり得なくはないか。)
セチャンは若い二人の背中を見送りながら考える。
(そういえば、ハヨンはもともとリョンへ様ではなく、リョンヤン様の護衛を任されたものの一人だったな。リョンヤン様のことはどうなんだ…)
ハヨンの微妙な立場を思い出して、セチャンは首を捻った。ハヨンはリョンヤン自らが望んで護衛役を命じたのだ。リョンヤンのお気に入りと言っても過言ではない。
その上セチャンは王子のどちらかと親密な仲に…と考えてはいるが、本来二人は最も有利な王位継承者である。一応貴族の血をひいているものの、ハヨンと結ばれると考えられる確率はとても低い。
(こんなに楽しそうな表情のリョンへ様は初めて見た…)
乗り越えるものは多いと思うが、セチャンは影なりに応援しようと心の中で決めるのだった。
そんな応援をつゆも知らない二人が、自分の気持ちに目覚めるのは、もっと先の話になる。