第9章 王子の休日
「リョンヘ様…!おはようございます。」
「おはようセチャン。どうしたんだ、こんなところで。」
敬礼をしてリョンヘを待ち構えていたらしいセチャンが厩舎の近くにある井戸の前にいた。
「は、実は昨日のことなのですが、不審な物が町に落ちていたと報告があったので、町のすべてを視察してきたのです。ですので今日の視察は大丈夫だと思われるのですが…」
「不審な物、とは?」
リョンヘは険しい表情になる。きっと王都の城の物がちょっかいを出してきたのかと心配したのだろう。実は不審物があったのは本当だ。セチャンは作戦のために行おうとしていたので、昨日は報告を受けたとき、泡を食っていたが。
「奇妙な文字が書かれている紙が落ちていて、誰かのまじない物かと騒ぎになったのですが、子供が筆の練習をして、書いたものだと判明しました。」
リョンヘがその報告を受けて、思わず口元を緩めたのがわかった。想像していたものとかけ離れていたからだろう。今の不安定な情勢だと何でも怪しく危険に思えてくる。間違った報告があってもおかしくはないのだ。
「…そうか。ならば今日はもうすでに二つの仕事は終わってしまったということだな。…。キョウノシゴトハあと…、この蒙の郡長との謁見だな…」
郡には王や貴族の命を民に伝える長がおり、その人物を郡長と呼ぶ。今日もその郡長と警備についての話し合いをする予定だったのだ。
「それが…。今日は郡長の予定が合わなくなってしまい、謁見は取り止めにしたいと…」