第8章 四獣のさだめ
「あの、若い女性だったのですが彼女がまだ3歳ぐらいだった頃に、彼は元でも西の端へと引っ越したのだそうです。そして噂で彼が亡くなったとその2年後に耳にしたと。」
普通なら人々はあまり引っ越しや旅をしたりしない。戸籍や税の問題、手続きの煩わしさから、先祖代々定住する者の方が圧倒的に多いのだ。
だからその女性もその土地を離れたことがなく、噂の真偽もわからないのだろう。
「西の端か…。今日は元でもまだまだ入り口付近の東側を探したからな…。少し遠出になるが、東側に向かった方がいいかもしれないな。」
リョンヘの独り言ともとれる呟きを聴き、セチャンの脳内は明日の予定の変更のために目まぐるしく動き出す。
「では数日かけて2班で東側に行きましょう。ただ、これもまだまだ確証がとれませんので王子には留守をお願いすることになりますが…」
セチャンはしばらくして思いきってそう提案した。この城の警備を行うには人員が手薄になるとかなり痛い。本当は一班のみでの探索にしたいのだ。
(せめてもう少し兵士がいてくれたらなぁ…)
愚痴など言っても仕方がないのでこの言葉は彼のなかにしまわれたままである。
それに今はリョンヘの右腕のような立ち位置にいるものの、本当は彼は戦を得意とし、城の警備や護衛、捜索などは学術書でかじった程度だった。だから、自分の判断が本当に正しいのか少し不安でもあるのだ。
(せめてヘウォン様がいてくださったら…)
行方のわからなくなっている、この国で最強の男を思い出さずにはいられないのだった。