第2章 異変
城の周りは厳戒体勢の際にしかれる兵の配置とほぼ同じで、正門の前に来たハヨン一行は足を止めた。
「滓への使節団一行、ただいま帰還いたしました。」
一行の指揮官であるセチャンがそう城の正門へ続く橋の前にいる兵士に告げた。城の周りは堀があり、正門の前にのみ跳ね橋がある。城を攻められた際はその跳ね橋を上げてしまうことにより、敵の侵入を防ぐのだ。そして今、何と橋の上には兵士が整列している。これでは通ることはかなわない。これは形は違えど明らかにハヨン一行が城へ入ることを拒まれている。
(嫌な予感がする…)
ハヨンはそろりと携えている剣をいつでも振り抜けるように構えた。
そのとき正門が開き、王室付きの伝令が駆け出してきた。
「伝令!使節団一行はリョンヘ王子を速やかにヒチョル様弑虐の容疑で捕らえよ!」
一同に衝撃が走った。
「父上が…ご崩御なされた…?」
呆然としたリョンヘの声がハヨンの耳に届く。
「…王は…いつご崩御なされた」
低く唸るような声でセチャンが問う。
「昨夜未明でございます。」
「それならば王子は私たちと御一緒だった!なぜだ!」
伝令の答えを聞いてセチャンは吠えるように訴えた。この一行は偶然にかリョンヘと同じ庶民派の者が多かったし、今回の旅程でリョンヘは随分と慕われるようになった。周りはその伝令の内容に怒りを覚えたようだ。
「王を暗殺した者がリョンヘ王子との密書を持っておりました」
(そんなもの、いくらでも偽装できる。城にいなかった私たちは全く状況を読めない立場にいる。私達を混乱させてそのままリョンヘ様を連行させた方が楽だと考えたのか。)
ハヨンはリョンヘはそのようなことはしないと知っていた。彼は戦ったりはするものの、殺めることは今までなく、むしろその事を嫌っていた。また、王を慕っていた。
セチャンも食い下がって何やら伝令に言い返しているがことごとく失敗していた。