第2章 異変
燐に入ったときに、何やら違和感があった。妙に街全体が静かなのだ。人一人も出歩いていない。
そして燐でももっとも栄えている城下町の大通りを通っているとき、その違和感はますます濃いものとなった。
商売をしているものが一人もいない。そしてなぜ家屋の暖簾はみな黒に統一されており、王族の家紋が白く染め抜かれている。
一行は眉をひそめた。これは王族に不幸が起きたときに使われるものだ。不幸と言うのはもちろん誰かが亡くなったということだ。しかし、一行にはそのような知らせは届いていない。もし誰かが亡くなったのであれば、民に知らせるよりもまず、早馬で一行に知らせが届くはずだ。
「妙だな…」
「はい」
隊列の先頭にいる指揮官のセチャンの呟きにハヨンは同意した。
「何があった」
そのくぐもった声は輿の中にいるリョンヘのものだ。
「なぜかどの家屋にも朱雀の紋の暖簾がかかっているのです」
輿の隣に位置するハヨンが答えた。
輿に入っているリョンヘは余り周りの様子が見えない。ハヨンの答えにすこし動揺したようだった。
「何。城で何があったようだな…早急に城に戻れ」
「は。」
セチャンはそう返事をして、皆の歩みを速めさせた。
リョンヘにもっと良い方向に考えろと言われ、それもそうだと思い直していたハヨンだったが、流石にこれは何か悪いことが起こったとしか思えなかった。