第7章 錯綜
「ヨンホ。」
彼は素振りを止め、木刀を下ろす。
滓国のヨンホは日課としている朝の稽古をしていた。この時間は彼にとって精神を、身体を高める大事な時であり、普段滅多に人が近寄らない。彼の大事にしている稽古を、邪魔せぬようにとの配慮だった。
そんな中でも気にせず声をかけられるのは彼の兄の王子や、父である現王程度だ。
「何かございましたか、父上。」
ヨンホが汗をぬぐい、そのあと平然とした様子で尋ねてくるので、王は少しむっとなったようだった。
「…そなた、せっかく結んだ燐との同盟を反故にした(なかったことにした)そうだな。」
王は少々腹をたてていた。交流のために燐を訪ねたヨンホに燐の国との同盟の必要性を訴えられて始まった同盟だ。王は確かにこの同盟は無益ではないと思ったので、ヨンホの案に賛同したが、言い出した本人がこのように同盟を否定したことが無責任に思えたのだ。
(いい加減な扱いをすると思われたら、他の国との同盟や条約などにも亀裂が生じる。その事をヨンホはわかっておるのか)
じっとヨンホを見据えたが、ヨンホは顔色すら変えない。
「反故にしたのではありません。」
と、その上訳のわからないことを言い出したのである。
「なぜ。援軍の要請をにべもなく断ったのだろう?そういうものは、援軍を送るにしろ送らないにしろ、一度検討すると答えるべきだ。」
こんな扱いをしていると、滓はどの国にも援軍を送らないと思われ、信頼が落ちかねないのだ。