第7章 錯綜
「ええい仕方がない!今は国内で人手を集めるしか手だてはない。徴兵の令旨(王じきじきの命令のこと)を出す。」
男は苛立ちをぶつけるように声を張り上げた。
「おそれながら…。それではリョンヘ側の手勢も体勢を整えてしまうのでは?」
手下は身をすくませながらそう男に意見した。男は手下の目の前に立って見下ろす。
「いいや?私たちが令旨を出したとなれば、やはり民達は王の命に従うしかない。そうなれば自然とあいつらの手勢は少なくなる。それに私もだいぶんもとの力を取り戻した。青龍一匹と雑魚兵士数十人なんて屁じゃないな。」
男は笑みを浮かべて再び部屋を歩き回る。次は自信がわいてきたようで、足取りは軽やかだった。
しかし気を高ぶらせて叫んだり、高笑いをするなどして自分に酔っているような者ではない。その辺りが冷静さをもつ切れ者らしさが現れていた。この男は決して己の力を過信しすぎて自分を見失うような者ではないだろう。
リョンヘ達にはやっかいな人物である。
「そう言えばあのがさつな男はどうした。」
「ヘウォンとやらのことでしょうか?」
男にまでがさつと言われてしまうヘウォンはなかなかである。しかし男は彼を一目置いていた。何しろこの国では最強の武人だからだ。
「今だ我々に下る意思は見せておりません。」
「ふぅむ…」
男は自分の力でヘウォンを操り、自分の配下に置こうとしたのだが、ヘウォンの精神はあまりにも強靭で、操ることができなかったのだ。
(今まで王族と四獣以外、このようなことはなかった…。しかし、それを考えればもう一人王族もしくは四獣みたいなやつがいるみたいなものだ。出来れば我が支配下におきたい…)
男はどこまでも欲深かった。