第6章 逃す
「それはどういう…」
力なのですか。とハヨンが言葉を続けようとしたとき、老婆の腹の虫が大きな音をたてて鳴いた。ハヨンは唖然として動きを止めて老婆を見る。
「そういえば久しく食事をしてなかったねぇ」
と彼女は暢気な様子だ。そして枯れ枝のような手で腹をさする。
「あの…いつ頃から食事をされてないのです?」
ハヨンがおそるおそる尋ねると、
「確か…一週間くらいかのう」
と驚くような返事が返ってきた。ハヨンは慌てて立ちあがり、彼女を厨房につれていこうとせき立てる。一週間も食事をしておらず、しかも老婆だ。命に関わる問題である。
厨房で訳を話し、一週間も食べていないので固形物を食べると胃に悪いということで、湯気のたつ粥が老婆の前に置かれた。
だいぶ遅い昼食なのか、早めの夕食なのか、よくわからない状態だった。
「久しぶりに温かい食事にありつけたよ」
彼女はそう言って粥をかきこむ。
「あまり急いで食べると体に悪いですよ。」
と慌ててハヨンが言うと、
「大丈夫。わしは体は丈夫なんじゃ」
と老婆はにやりと笑う。そして腕を曲げて力瘤を作ったが、彼女のような細腕ではたいして筋肉もついておらず、ますますハヨンは心配になってしまった。
その食事のあと、
「食べたら眠たくなってきた。わしはそろそろ部屋に戻って休むとするかねぇ」
とハヨンが食後に寝るのは体に悪いと言ったのを聞き流して自室へと戻っていった。