第6章 逃す
(結局赤い目を持つ男の人がどんな力を持つのか聞けなかった…)
ハヨンは自室に戻ってはっとする。あの時ちょうど老婆の腹の虫がなったのは偶然なのか故意なのか。どちらにしろのらりくらりと核心に迫る質問には答えなかった老婆の技量は大したものである。
(あの人、とんでもない人だ。信じられない速さで歩くし、一週間食事抜いても平気な顔をしてるし、本心をあんまり見せない。)
ただの老婆、ではすませられない人物だ。
ハヨンは寝台に倒れこんだ。今日孟の城にたどり着くまでは追っ手に見つからぬように移動していたし、到着したら次は青龍やら老婆やら、そしてリョンヘのことやらで、休む間もなかった。
(…結局あれは何だったのだろう。)
リョンヘと二人で話していたあの時間、なぜあんなにも二人でいることが苦しかったのか。
あの彼の射抜くような瞳を思い出す。
(何か暑い。)
夏の夜だからだろうか。不意に部屋が暑く感じた。
(でも、二人きりなのは全然嫌ではなかったし、むしろ嬉しかった。久しぶりに彼に会えて、感極まってああなったのだろうか。)
ハヨンは考えを巡らし続ける。いつも人一倍何事にも考え込んでしまう質だが、これには何も結論が出なかったので、珍しく考えることをやめる。
(今はリョンヘ様とリョンヤン様のことだけを考えればいい…こんなこと考えるのはやめよう。)
久しぶりに横たえた寝台は心地よく、ハヨンは瞬く間に深い眠りへと落ちていった。