第6章 逃す
「ところでわしはあんたに用事があったのじゃが、質問してもかまわないかい?」
「はい。なんなりと。ここで立ち話もなんですし、私の部屋にいらっしゃいませんか?」
老婆は深いしわをさらにくしゃくしゃにさせて笑う。
「いいのかい?そりゃ助かるねぇ。」
そうして二人は並んで歩き出す。ハヨンは女人にしては上背があり、老婆は背が曲がっているためか、子供とそうかわりない背丈だ。その上武装しているハヨンと、ぼろぼろになった服の老婆の姿はちぐはぐだ。周囲から見ればなかなか奇妙な光景だろう。しかしハヨンは、この城の中にいる数少ない女性の一人だと思ったら何やら親近感がわいてきた。
(おばあ様がいらっしゃったらこんな感じなのかな…)
ハヨンの母方の祖母は母を産んで間もなく亡くなっているので顔も知らない。そして父方はいつでもいらっしゃいと言われたが、今まであまり親交がなかったために気が引けて、仕事を理由に顔を会わせたことがない。
そばを歩く老婆の姿を見て、ハヨンは顔をほころばせる。なぜあんなにも怪しかった老婆にこんなにもすぐに心を開いたのか、ハヨン自身も驚いていた。
「…あんたのその目は…誰かから受け継いだものなのかい?」
老婆がぽつりとそう問うた言葉に、ハヨンは目を瞬かせた。
「目、ですか。」
ハヨンの瞳は鮮やかな赤色だ。この国の者では持つことのない色である。
「いいえ。これは私だけです。ちなみに私の父も母も、この国の人です。」
ハヨンはそう言って笑って見せた。いつもこの不思議な話を持ち出されると、誰に対しても笑顔を浮かべる癖がある。実は複雑な理由があるのではないかと思われるのが嫌だったからだ。