第6章 逃す
ハヨンはそのまま自室まで走り出す。なぜこんなにもリョンヘに緊張してしまったのかわからなかった。
(何でだろう、急にあんなふうに…)
心臓の音がうるさいように感じる。他の人に聞かれてはいないかと思ってしまうほどだ。
自分がなぜこんなに動揺しているのか、わけがわからないので、早く自室で一人になって考えたかった。
(何だか自分が自分じゃないみたいだ…)
その時、ふいに後ろから肩を叩かれて、ハヨンは飛び上がった。とっさに首を後ろにねじ曲げたが、相手の姿がない。目線を下げると先程の老婆がいた。
「チェヨン様!」
「やだねぇ、そんなにかしこまらなくていいんだよ。あんたはさっきの部屋で控えていたね。」
そう笑顔で話す老婆は、先程よりも柔らかい印象を受けた。しかし走っていたハヨンに追いつき、息も切らさず、自分より身長の高い相手の肩を叩くなど、老婆の動きではない。
(この人本当に一体何者なの…)
「はい。白虎に所属しています、ハヨンと申します。」
今では所属していた、という表現の方が正しいかもしれない。あの城ではもう、身分を剥奪されていてもおかしくない。
「ほぉ…。女人の剣士、それも白虎とはねぇ。あんたはなかなかに優秀なんだねぇ。」
「私よりすごい方はたくさんいらっしゃいますよ。私もその人のようになれるよう、日々精進してます。」
ハヨンは白虎の隊長であるヘウォンを思い浮かべる。彼のような伝説になるほどの腕前をもつのは、遠い道のりだ。
(みんなお元気だろうか。城の様子がわかればな…)
怪我も治り、ようやく周りの様子に気がまわりはじめた今、ハヨンは城にいる人々が心配だった。