第3章 逃亡
兵士が戸を叩くと、ヒョンテはすぐに顔を出した。
「今日はどうされま…」
笑顔を浮かべた彼は、ハヨンの姿を認め唖然とした。
そして彼女の腕の傷を見て険しい表情を浮かべる。
「とりあえず馬は横の厩に繋いできてください。怪我人はすぐにこちらへ。」
そういうとヒョンテは診療所の中に引っ込んでしまう。三人の付き添いの兵は厩へ馬を繋ぎに行き、もう一人の付き添いの兵と、ハヨンそして怪我をした二人はヒョンテの後に続く。
診療室に入るとどうやら彼は薬の調合の最中だったようだ。それを卓の脇に置き、彼はこちらに向き直る。
「…申し訳ありませんが、応急処置が終わったらおひきとり願いたいのです。私も面倒なことには巻き込まれたくないので。」
そしてハヨンに座れと促す。彼女は素直にそれに従い、卓の横にある椅子に座った。
「これは…出血がひどいな。長時間矢を差したままだったようだが?」
ハヨンの服の袖は血をたっぷりと吸い、腕に張りついていた。それを慎重にはがし、ヒョンテは傷口を注意深く見る。
その腕にはまだ矢尻と矢の柄が短く折れた状態で刺さっていた。
「抜くと余計に出血が酷くなるので、落ち着いてから抜こうと思っていたのです。」
矢の柄は長いままだと危ないので折ったが、下手に抜くと傷を酷くしたり、出血死になりかねないと思ったからだ。
「もう少し遅かったら壊死もあり得たぞ。この馬鹿者。」
いつも穏やかなヒョンテにしてはかなり語気が荒かった。かなり怒っているのだとハヨンは気づき身を縮める。
「今から矢を抜く。痛いが我慢しろ。どうやら毒もないし、抜きにくいように妙な返しがついているわけでもない。その場合よりはましだと思って耐えろ。」
なかなかむちゃくちゃな励ましかたである。ハヨンは呆れながらも頷いた。