第3章 逃亡
ハヨンは今までこのような傷を受けたことがなかった。刀傷も擦った程度のもので、このように刺さったようなものはない。
引き抜くときの痛みは初めてで、思わず歯を食い縛って耐えた。
矢の刺さった状態で血は固まっていたので、再度流血したが、ヒョンテは流れるような手つきで消毒し、包帯で止血する。
「やはり先生はお上手ですね…」
「当たり前だ。これが本職なんたからな。さぁ、次はお前たちだ」
ハヨンは礼を言って立ちあがり、残りの兵士に場所を譲った。
一人は左腕に刀傷を負い、もう一人は肩に傷があった。
ヒョンテが淡々と治療を施す間、沈黙が流れる。ヒョンテの立てる物音が大きく聴こえ、気まずい気持ちになった。
やはり一行についていけただけあったのか、縫うほどの傷ではなかったのが幸いと言うべきか。
約束通り治療をうけ終えたので、立ち去ることにする。
「先生、ありがとうございます。この恩はいつか必ず返します。」
ハヨンはそう言って頭を下げた。
「これくらい大したことない。ただ、ハヨン。これはただの元師としての言葉だが、お前はどうやら面倒なことに巻き込まれているようだが、あまり無茶するなよ。実際城の内部はきな臭い雰囲気だ。お前はその渦中にいるから俺の言葉を守るとは思えん。ただどうか無事でいて欲しい。」
「ありがとうございます。」
もう一度深々と頭を下げて、ハヨン達は立ち去った。少しでも速くリョンヘ達と合流できるよう、民と同じ服装に変え、夜道をひたすら駆けて行く。
王都を抜けながら、会えない母やヨウのことを思いだし、胸が痛む。
そして父方の叔母のことも。
(どうかご無事で。)
ハヨンは心の中でそう呟くのだった。