第3章 逃亡
「…い、おいハヨン」
馬をひいていた兵士に声をかけられて、ハヨンはっと我に返った。
どうやら半分意識が飛んでいたらしい。無事に馬の背にまたがっていることを確認してほっとする。きっと完全に意識がなかったら落馬していたに違いない。
「器用なやつだな…しかし、あれほど用心深いお前が寝入ってしまうとは珍しい。大丈夫か?」
最初は呆れていたものの、彼も心配になってきたらしい。
「まだ、何とか出血もひどくありませんし…痛いのはいたいのですが。」
痛いと言葉にしたとたん、余計に痛みを感じ始めたように思えたのは気のせいだと思いたい。
ハヨンに傷口の様子を見る勇気はなかった。見てしまったらその怪我の酷さを改めて認識し、痛みに耐えられない気がしたからだ。
「もうすぐ王都のはずれに突き当たる。できるだけ人目のつかぬ道を案内して欲しいんだが。」
「はい。わかりました。途中で寝そうになっていたら突っついてくださいね。」
なるべく心だけでも元気でいよう、と思って少し常談めかしてハヨンは言った。
しゃれにならんぞ、とでも言いたげな兵士の横顔を見て、少し調子に乗りすぎたか、と少し恥ずかしい思いと、そんなに自分の状態は悪いように見えるのだな、と不安が入り交じる。
王都も敵が攻めてきたときのために少し複雑な街の並びになっている。そのため裏道も多い。
他の新米兵士と違って各地の視察に行けていないハヨンだが、王都ならば大体の構造を把握している。
無事に見回りの兵や、街の人々には会わなかった。
(そうか、城下ではご崩御なされた王に喪を服してる真っ最中だから、出歩くものも少ない。今日はある意味では幸運だった。)
ヒョンテの家がやっと見えた。明かりもついているのでどうやら中にいるようだ。