第3章 逃亡
「どのようなことだ」
「あの…なぜリョンヤン様は自身の護衛者をリョンヘ様にお付けしたのでしょう。護衛の無いリョンヘ様が使節として外出するという理由にしても、なかなか大きな贈り物のようなものです。」
「確かにな。それにハヨンはリョンヤン直々に目を止めた護衛者だ。かなり頼もしい。」
なにやら思い詰めた様子のセチャンがおずおずと口を開く。
「あの…それで思ったのですが、ハヨンはリョンヤン様の内通者としてこの役を任されたのでは…」
セチャンの考えも無理はない。何しろリョンヤンは今や王だ。そしてリョンヘは敵対する状態となっている。ここの逃げた仲間の中でリョンヤンと直接関わりがあり、直々に命を受けやすい人物と言えば彼女だ。
「馬鹿を申すな。」
リョンヘはぴしゃりとその言葉を否定した。
「彼女は、彼女は…」
思わず友人だと言いそうになり口をつぐむ。それはリョンの時の話だからだ。
「実は城で何度か話したことがあって、私とは顔見知りなのだが、彼女はそう言う者ではない。」
あやふやにしか言えないのが悔しかった。しかしこれもリョンヘが信じているというだけで、証拠はない。
セチャンは昔から気の合う数少ない臣下の一人なのだが、今はとてつもなく腹が立ってしまった。
こういう時に彼女をちゃんと自分は仲間だと思っているのだと実感する。
ずいぶん長い間軽口を叩いておらず、リョンの時の関係がずいぶん懐かしいように思えた。
きっと彼女を疑っている者は他にもいるだろう。
(どうか無事に合流できますように…)
リョンヘはそう心の中で祈るのだった。