第19章 失われていたもの
ハヨンは自分が見てきたことを走馬灯のようにぐるぐると思い出しながら、リョンヘの言葉を受け止めた。
(私が…朱雀…?)
四獣はこの国の王や神と同等の存在だ。そしてこの国の守り神だ。
(私がそんな存在のはずがない。それならば私はあの時…)
ハヨンは思わず涙をこぼした。主人の前でこのような姿を見せてはいけない、と堪えようとするが、抑えきれなかった。
「ハヨン…。自分が朱雀だというのは…受け入れたくないか?」
リョンヘは優しく小さな声でそう言いながら、椅子から立ち上がり、ハヨンの寝台のすぐそばにしゃがみ込んだ。涙が溢れているのを見せたくなかったため、俯いていたのだが、これではリョンヘには隠せない。ハヨンは咄嗟に手で顔を覆った。
「…私は…そんなものではないの。もし朱雀だったのなら、どうしてリョンが城から閉め出されたとき、私は人の形でしか闘えなかったの?どうして今回の戦で…敵の大将を倒せなかったの…?私は四獣であれば守れたはずの命を取りこぼして、何一つ誰も救えていない。一人でも犠牲者を減らしたいのに増やしてばかりいる…。私は何もできなかった…」
ハヨンはそう、嗚咽混じりに訴えた。己の至らなさ、そしてその能力があったとしたら、もっと早くに使えなかったことへの後悔が溢れた。しかし、それはこの国の王子であるリョンヘも考えているはずのことだ。修羅の道を行くと心を決めたリョンへには負い目を感じさせる言葉だ、とハヨンは言ってしまってから気がついた。リョンヘほど辛く感じているものはいないのに、とハヨンは後悔する。謝ろうと思った時、頬に、肩に、暖かさを感じた。思わず顔から手を離すと、リョンへの腕が、自身の肩に回っていた。
「辛かったな…。でもな、チェヨンさんから聞いたんだが、四獣は己の力に気がついた時か、瀕死の状態にならないと覚醒しないらしい。だからそのことは、ハヨンは自分のことを責めなくていい。それにハヨンは敵を一人で退却させた。そのおかげで孟にいる仲間はみんな生きている。ありがとう。」
その言葉を聴いて、ハヨンはますます涙が溢れた。どうしてこの人はこんなにも優しいのだろうか。その様子を見ていリョンヘは優しく背中を撫でる。