第19章 失われていたもの
(ここは…。どこだったっけ)
ハヨンは目覚めてからぼうっと目の前に広がる天井を眺めていた。長い間寝ていたのか、頭がうまく働かない。しかし、自分が何か大切なことを忘れているというのは感じていた。
関節が軋み、皮膚はずきずきと痛む。重たい体を何とか動かし、起き上がった。そして、周囲を見渡して体を強張らせる。
「りょ、リョン!?」
思わずそう叫んだが、声は弱々しい。この時、ようやく自分が孟の城に帰ってきていたことに気がついた。リョンはというと、腕を組んでうたた寝をしていたが、ハヨンの声に気づき目を覚ました。
「ハヨン…!!目が覚めたんだな」
彼の喜色に染まる顔を見て、ハヨンはああ、戦は終わったのかと安堵した。
「ごめん、私途中で倒れちゃったみたいで、戦で最後まで戦えなかった…。」
ハヨンは戦での記憶を振り返りながらそう謝る。兵士を庇い、背に火矢を受けたところまでは覚えているのだが、それ以降の記憶が全くないのだ。
「…。戦であったこと、覚えていないのか?」
「え?山が火矢のせいで火事になったところまでは覚えているけど…。」
リョンヘが虚を突かれたようだった。
(一体私は何をしたの…?)
「そのあと、ハヨンは敵側の進軍を止めに行ってくれたんだ」
そんなまさか、とハヨンは信じられなかった。山火事によって仲間たちはちりぢりになっていた。そうでなくとも、あんな少数では敵陣を退却させるほどの力はない。
「そんなはず…」
「いや、本当の話だ。それもハヨン単独で、だ。」
ハヨンは目眩のような感覚がした。しかしぼんやりと霞がかかっていたような脳内も、ようやくすっきりと冴えてきて、火矢の攻撃を受けた後のことも、だんだんと思い出してきた。
「私は…私は、何なの…?」
人間であるなら決して起こりえない記憶が混じっており、ハヨンの鼓動は早鐘を打っていた。空を飛び、火を纏い、操り、敵陣まで急降下する。これはまさに…
「鳥…??」
いや、違う。鳥は火など吐いたりはしない。ハヨンはある一つの可能性にたどり着いたが、口に出す勇気がなかった。
「いいや、これを言ったらハヨンは驚くかもしれない。でも、その後のことも記憶が戻りかけているみたいだし、余計に混乱を招かないうちに言っておくよ。…。ハヨン、あんたが四獣の朱雀だ。」