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華の剣士 2 四獣篇

第18章 目覚めのとき


ハヨンは奇妙な感覚に囚われていた。背には矢が刺さり、体は炎に包まれているのに、熱さを感じない。それなのに、体の奥底では燃え盛る炎のような、激しい熱情が渦巻く。

(この国を守らなければ…。あの人との約束を果たさなければ…!!)

そう考えた後、首を傾げる。

(あの人って、誰…?)

ハヨンもリョンヘの力になりたいとは思っているが、先程考えた"あの人"はリョンヘのことではなかった。誰かに自分の感情を制御されているような、自分自身なのに自分を俯瞰しているような、夢の中のような心地だった。

体がふわりと舞い上がり、いつのまにか火の海となった山を離れ、敵陣が一望できる荒野の上空にいた。人々が列をなす後方に、人目をひく一行がいる。それは敵陣の大将、この国を乱す者だった。

(あの者の好きなようにはさせない…!!今こそあの者を討つ時…!)

長年の仇を前にしたような高揚感と怒りが沸き起こる。その瞬間、ハヨンの体は敵陣に向かって一直線に急降下した。
歩兵たちはぞろぞろと歩いている。恐らくリョンヘのいる孟の城に向かっているのだ。

(これ以上進軍させてなるものか…!!)

ハヨンは進軍する者達の一歩手前の所に、炎で直線を描く。突如現れた火柱に、兵士たちは悲鳴をあげながら飛び退く。
その姿を見届けた後、ハヨンは敵陣の大将のいる方へと向かう。矢傷は残ったままなのに、体は軽く、今ならば本当に何でも焼き尽くせそうだった。

敵将が目に入り、ハヨンは真っ直ぐ進んでいく。男が自身に向かって呪詛を放とうとしているのが見える。こんなにも男に対して怒りがこみ上げているのに、冷静に周囲を見れていることに驚いた。男が放つ禍々しい気を避け、ハヨンは炎を吐き出す。炎は男の目の辺りを直撃した。すかさず男を鉤爪で切り裂き、反撃の余地を与えない。

「ぐああぁぁああ!!」

彼の叫び声とともにおぞましく、どす黒い何かが吹き出している。きっとあれが、彼の力の根源たるものなのだろう。どうやらそれは毒気のようなものらしく、吸い込んでしまったハヨンは、目眩がした。
男はそれを見逃さず、動きを止めたハヨンに呪詛を放ち、命中したハヨンは、大きく姿勢が傾ぐ。


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