• テキストサイズ

華の剣士 2 四獣篇

第18章 目覚めのとき


(だめ。ここでこの男をしとめないと、リョンヘ様にも危害が…)

ハヨンは力を振り絞り、反撃をしようとしたが、突然身に覚えのない記憶が脳裏に浮かんだ。嘲笑う男、倒れる自身の体。そして冷たい床に横たわる自分にすがりつき、泣く子供と、死への恐怖。

(…これは…。誰の記憶?)

ハヨンはこんな家に住んだことも、子供がいたことすらない。しかし、はっきりと記憶に残っており、これは警告なのだと悟った。

無念、とハヨンは最後に男を焼きつさんと言わんばかりの炎で辺り一面を焼け野原にし、朦朧としながらも主人のもとへと翼を翻し、飛んで行くのだった。


山中にいた見方の兵士たちの逃げ道を作った後、ムニルは一人山を越えてハヨンの行方を探していた。

山からそれほど離れていない場所で、火の手が上がっている。もう既に敵の軍は撤退した後で、人っ子一人いない。

(誰もいないし、この姿で探した方が好都合ね)

ムニルは限界だと悲鳴を上げ始めている己の体に鞭打って、燃立つ火が見える方へと進んでいく。その途中で、何か草でも岩でもないものが見える。目を凝らすと、ハヨンが着ている服や鎧の色と一致していた。慌てて駆け寄ると、たしかに彼女だ。刺さっていた矢は焼け焦げ、頬には煤が付いており、纏っている服も綻んでいる。そして極め付けに、彼女の右腕は黒く禍々しい紋章が一面に刺青(しせい)のように刻まれている。

(これは何?身に覚えがないはずなのに、ずっと知っているもののような気がする…)

ムニルは眉をひそめた。しかし、その奇妙な模様を気にしていてもしょうがない。まずは満身創痍の彼女を治療せねばならないのだ。

ムニルは己の龍の姿を解き、人の姿に戻って、彼女をおぶる。

(幸い、みんなに一頭馬を残してもらった…。この山を何とか越えて馬に乗りさえすれば数刻も経たずに城につける。)

ムニルはそう己を励ましながら進んでいく。しかし、自身の体力ももう底をつき始めていた。

(ごめんね、でももうこれも使えないと思うから…)

もう溶けて原型を失いかけている鎧を、その場に捨て置く。それだけでも随分と軽くなった。

/ 210ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp