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華の剣士 2 四獣篇

第17章 火蓋は切って落とされた


ハヨンは刀を抜き払う。そして、仲間とともに歩兵たちに飛びかかっていった。
山頂から半ば飛び降りるような勢いで切りかかったので、全体重が敵兵の刀にのしかかった。ハヨンたちに素早く応戦し、刀で受け止めた上に弾き返そうとするのだから、かなり手強い。ハヨンは反動を利用して後ろに飛んだ。ハヨンたちの方が山の山頂におり、攻撃的には圧倒的に有利なのだが、ここの山は斜面がきつく、足場が悪い。その上、季節柄枯葉も多く、気を抜けば足を取られかねない。
ハヨンは再び暗器を2つ、相手の方に飛ばす。敵はとっさに刀で弾いた。その隙を狙い、相手の肩から腹へと振り下ろした。ハヨンの剣筋に沿うようにして血が吹き出す。致命傷ではないとはいえ、ハヨンは今まで敵を生け捕りにすることを主に担ってきたので、その光景を見て腹の底がひやりとした。
しっかりしろ、と己を叱咤し、次々とやってくる敵兵を薙ぎ払う。徴兵された兵たちは死なせないように手加減する、と決めていたのに、もはやその余裕はなくなりつつあった。誓い一つ守れぬ弱い自分に、ハヨンは悔恨の念が湧き起こる。
「はぁぁあああ!!」

悔しさと苦しさで涙がこみ上げ、視界がぼやけたが、ぐっと堪えた。
と、その時。ひゅんひゅんと張り詰めた糸が弾かれるような音がした。

「おい!上だ…!!」

上を見上げると、燃え盛る炎が見えた。

(え…!?火矢だ…!!)

敵兵と鍔迫り合っていたハヨンは大きく後ろへと飛び退く。ちょうどハヨンの立っていたところに火矢が刺さり、枯葉を一瞬で燃え上がらせた。あちこちで同じように火の手が上がる。

(ちょっと火矢が飛んできたからとは言っても、こんなに燃えているのはおかしい。普通の火矢のように、矢の先に油を包んだものを入れたにしては威力が強すぎる…)

みるみるうちに辺りが火の海になる様子を見て、ハヨンは辺りを見渡した。すると、ハヨンたちから離れた所にいた敵兵たちが、袂から小瓶を取り出し、あたりに液体を撒き散らす。この状況から考えるに、油だ。敵の大将は彼等を捨て駒にするだけでは飽き足らず、焼死させるつもりなのか。人間の命をあまりにも簡単に扱う、目には見えない人間を超えた力を持つ者に吐き気がした。


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