第17章 火蓋は切って落とされた
そろそろ、山頂に用意していた大岩も尽きる。そうなれば刀を交えて闘わざるを得なくなるだろう。今のところ歩兵部隊は刀しか携えておらず、弓による攻撃もなかったので、こちらの兵士たちは誰一人傷を負っていない。近距離戦になることを意識し始めたからか、皆の表情は固かった。
あと、岩も残り二つだ、という時に相手側に動きがあった。歩兵隊達の動きが急に俊敏になる。ハヨンは思わず暗器を投げて応戦した。その暗器を歩兵は軽くかわす。ぞくっと寒気が走った。
「何か変よ!気をつけて!」
何か、などと根拠のない言葉だが、目の前の兵士たちは明らかに徴収された民達の動きではない。一同は身構える。残りの岩を誰かが転がして応戦したが、人とは思えない跳躍力で乗り越えた。ハヨン達一同にどよめきが走る。
「これは歩兵隊達に温情をかけてるわけにはいかないわね…!」
珍しくムニルの声には焦りが滲んでいた。隣で眩しい光が現れたかと思うと、彼がいたところには竜が現れた。他の兵士たちは弓矢ひよって敵兵を攻撃する。しかし、矢が2、3本刺さったところで敵兵は怯む気配がない。血が流れようとそのままハヨン達の元へと走ってくる。
「何だあれは!!」
ハヨンよりも年上の兵士が、叫ぶ。ひっ、などと怖気付いた声を出したりしないあたり、流石である。
「私が知っているわけないじゃないですか!!でも多分、この兵士達は予想していた通り、敵の誰かに操られているんでしょう!」
ハヨンはそう怒鳴りかえした。そうでもしないと、異様な空気に呑まれてしまう気がしたのだ。歩兵達の目には生気が宿らず、遠くを見ているような、心ここに在らずといったふうだ。
先程から龍になったムニルは口から勢いよく水を噴出させている。なかなか水圧があるようで、さすがの敵も吹き飛ばされる。以前は霧を出したし、尾で叩きつけるなどの攻撃は見たことがあったが、こんなこともできるのかとハヨンは驚いた。人よりも、獣よりも強いのは、これらとは違って自然を操れるからなのだろう。
「でもまぁ、ムニルにばっかりいい格好をさせるわけにはいかないわね」
自分たちも誇り高い武人だ。人とは異なる能力が使えないとしても、自分なりに精一杯戦わなければ、名折れである。