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華の剣士 2 四獣篇

第17章 火蓋は切って落とされた


(もしひどい怪我を負わせてしまったら、あとでこっそり治療に行こう。)

リョンへのために、と人は殺さないと決めていたが、やはり難しいことだと改めて感じ、そう心に決めた。幸い、ハヨンは幼い頃は医術師のヒョンテのもとで下働きをしていた経験から、ある程度の治療や処置は行えるからだ。
戦に不慣れな歩兵部隊は、転げ落ちる岩により、完全に足止めを食らうこととなった。


敵陣の最後方に陣取っている男は舌打ちをした。リョンへ率いる兵士たちが、城の手前の山に陣取ることは読めていた。しかし、思っていたよりも兵数も多く、男が率いる歩兵部隊は刀を交えることすらできないまま、山から転がり落ちていく。
向こうの数は限られている。そうなるようにとリョンへが城を離れる頃を見計らって、王城を乗っ取ったというのに、彼はしぶとく男に歯向かってくる。まだ王城にいた頃に、何度刺客を送っても死ななかったし、今回の戦で徹底的に叩き潰し、兄のリョンヤンに精神的な揺さぶりをかけようと思ったのに。
まだリョンヤンが幼かった頃に男は宰相となったのだが、一目見た時から早く消してしまわないと足枷になると感じていた。それなのに、こうして今も生きて自分の計画の邪魔をする。男はそれが苛立たしく、舌打ちした。

「あの作戦を実行する。用意しろ」

男は低い声でその場にいた副指揮官の男に命ずる。副指揮官が思わずといったふうに、えっ、声を出す。

「しかし、あそこには歩兵部隊が。」

「構わん。早めに撤退すれば犠牲は出ない。」

ちなみに、捨て駒である歩兵部隊を撤退させる気は毛頭ない。少しでも相手の戦力を削ぐ必要があるからだ。これは建前である。
そして、なおも言い募ろうとする様子を見て、暗示の術をかけた。ずん、と体が重くなる感覚がする。城に残った者たちや、徴収された歩兵部隊、そして各部隊の将軍達をもこの術にかけていれば、流石の男も堪える。ひとまずこの戦でリョンへを殺してしまえば多少は楽になる。と男は苛立ち我を忘れそうな自身をなだめた。
そして、今からが本番だ。せいぜい苦しみもがけ、と男はにやりと笑った。
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