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華の剣士 2 四獣篇

第17章 火蓋は切って落とされた


冷たい風が、ハヨンたちの肌を刺す。山頂から見える王族の紋章があしらわれた旗は、誇らしげにはためいていた。まるで自分たちが真の王族とでも言うように。しかし、旗の大軍の後ろに構えている大将の陣には、リョンヤンはいないだろう。そう考えていると、心の臓を誰かに掴まれたように、痛んだ。

白虎隊の者を除いて、初めて自分を見出してくれた人。ハヨンを信じ、片割れのような存在であるリョンへを頼むと託した人。そして、ハヨンの主。リョンへは大事な仲間、共に支え合う存在だとすれば、リョンヤンは尊敬すべき人、守りたい人だった。

(いつか必ず城に戻ります。どうかご無事で。)

そう、遠く離れた場所にいる主人に想いを馳せる。その時、風が唸るようにひゅうと吹いた。長く伸び、束ねたハヨンの髪が舞い上がる。今日はいかんせん風が強い。時折目に砂が入って痛かった。
空がだいぶん白んできて、じりじりと太陽が昇ってくる。その様子に、もう冬が迫っているのだな、とハヨンは場違いながらもそう感じた。

「そろそろ向こうから仕掛けてきそうじゃなぁい?」

ハヨンの側に立っていたムニルが、ひそひそと囁く。普通に喋ったとしても、敵に話を聞かれるなんてことはないのだが、目前の風景が重々しく、つい小声になるのだろう。ハヨンも小さく頷いて返す。
ハヨンたちの周りにいた兵士たちの緊張感が一気に高まった。

そろそろだ。

そうハヨンが息を潜めてじっと敵陣を見つめると、向こうから低く唸るような音で銅鑼がなった。敵陣の突撃の合図だ。
おーっ、と喊声(戦が始まる前に、兵士たちが士気を上げるために多数で叫ぶこと)がハヨンたちの元まで届いた。敵陣からわらわらと人影が飛び出してくる。やはり、始めは徴集された平民たち歩兵部隊のようだ。
彼らの境遇を考えれば胸が痛むが、戦は戦だ。彼らと戦わねばならない。この山は、大きな山に連なる小さな山の一つであり、高い丘と言った方がいいのかもしれない。しかし、草木は生い茂り、冬を迎えるために枯葉となっているとはいえ、身を隠しやすい場所ではある。
ハヨンたちは高さを利用して、岩を上から落とし始めた。致命傷にはならない程度に、とハヨンは岩の大きさも考えながら運んできたつもりだが、このような戦い方をしたことがない。これは自分なら生き残れるだろうと言う大きさを選んだと言うのが正しいのかもしれない。
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