第16章 白い霧
「じゃあ、次の戦にはどうして参加するんだ?自分の主が戦うからか?」
「ちょ、ちょっと待って。随分と質問するね。」
矢継ぎ早に質問するソリャに、ハヨンは戸惑い、目を白黒させた。
「だめだったか?」
気を悪くしたかと落ち込みつつ、妙な質問だっただろうかとソリャは気まずく思いながら、ハヨンが答えるまで立ち尽くした。
「いや、構わないよ。」
ソリャは穏やかなその声にほっとした。普段は口も悪く、生意気な態度をとることが多いので、まさかソリャがこんなにも恐る恐る質問したとは彼女は思いもしないだろう。
「私はね、大事な人を死なせたくないから戦うの」
「それはリョンのことか?」
早く答えが気になって仕方がないソリャは、すぐさまそう問うた。まるで好奇心旺盛な子供のようなその様子に、ハヨンがくすりと笑ったが、ソリャは気づいていない。
「もちろんリョンのこともそう。でもね、その他にもたくさん守りたい人がいるの。母さんとか私の師匠とか。あとは私の住んでいた村の人とか。他にも、城にやむなく残された同期とか上官とかね。それに、リョンを必ず守るようにと私に命じた人。その人は今、敵の最も近くで監視されていて、身動きが取れないと思うの。」
ソリャはこの人は何て無謀なことをしようとしているのか、と話を聴きながら考えた。
国民の多くが兵士として駆り出されている今、ハヨンの守りたい人がその中にいる可能性はかなり高い。
その上、敵の手中にいる者もいるのである。
「そんなに守りきれんのか?」
「みんなからは甘っちょろい理想だと言われても仕方がないと思ってるよ。それに、誰も傷つけずに済むとは思っていないし」
ソリャの不躾な質問に不快な様子も見せず、肩をすくめながらそう彼女は返事をした。
なぜそれでも望むのかとソリャは尋ねようとしたが、ハヨンはそれを察したのだろう。続けてこう言った。
「リョンはこれからの戦いで、犠牲が出るとしても、この国の先を思うなら、それを厭わず進むことを決めたの。でも、それはリョンの本心ではない…。だから、私はそのリョンの本当の願いを叶えるために尽力しようと思うの。そらは、私の願いと同じだから。」
ソリャも最近、リョンへの人となりを理解し始めていた。彼は人一倍情に篤く犠牲を嫌う。その選択は苦渋の決断だったに違いない。