第16章 白い霧
「そう言うソリャは何してるの?」
警戒を解き、ハヨンが朗らかな笑みを浮かべて問い返した。
まるで蕾がほころんだように笑うな、と柄にもなく詩的な表現が浮かぶ。そんな時自身に身の毛がよだち、苦笑した。
「俺は散歩だ。朝の空気が吸いてぇと思ってな。」
ハヨンが、へぇ、意外。と独りごちた。その驚きを含んだ声を聞いて、やっぱり意外だと思われるよなぁ、とソリャは気恥ずかしさと、俺が朝に散歩するのはおかしいのかよ、と少しばかりのすねた気持ちが生まれる。
(もうちょっとこう、他の奴らからの俺の印象、変わんねぇかなぁ。)
先程、ムニルとのやりとりを思い出しながら悶々としていた悩み事が再び頭をもたげる。
ソリャはたしかに口が悪いし、人を警戒するあまり、すぐに攻撃的になってしまう。しかし、本当は普通に仲間と和気藹々とするのに憧れているのだ。ここの城の面々は、ソリャが一匹狼のような性格だと勘違いしたものが多かったのか、どことなく態度がよそよそしい。そのことが少し寂しくもある。
「なぁ」
ソリャはそう考えながら口を開いた。ハヨンが何?と言うふうに顔を覗き込んできた。
「あんたは今までの常識を覆して、この男だらけの世界で力を認められているんだろ?それは簡単じゃねえと思うんだけど、どうやって周りの反対を押し切ってきたんだ?」
武人は強くたくましい男がなるもの。そのことはもう、当たり前のこととして、この国の人の意識に植えつけられている。伝説の物語も、活躍するのは男だけだ。そんな常識を覆し、さらに、限られたものにしか任されない、ハヨンは王子の護衛役として抜擢されたのだ。
周囲の印象を変える。ハヨンならば一番やり方を知っているに違いないのだ。
ハヨンはまさかそんな質問をされるとは思っていなかったらしく、拍子抜けしたようだったが、微笑みながらこう答えた。
「それはやっぱり、自分がどんな力を持っているのか、みんなに示したの。入隊試験とか、武術大会とかでね。」
やはりムニルの言うことは、一理あったのか…、とムニルはハヨン自身の言葉によって、納得することができた。