第16章 白い霧
ソリャがどうすればいいとムニルにすがったのだが、ムニルの口調は穏やかなものの、鋭い助言ばかりだった。
心の奥底では、何もできない自分に何度も嫌気がさして、なじっていたことに、改めて気づかされた。
(ムニルはいつも優しくて厳しくて痛いところを突いてきやがる…)
ついこの前のやり取りを思い出しながら、ソリャは深くため息をついた。
(何でここのやつらは戦うんだ。国のためとか民のためとか言ってっけど、それは本音なのか?)
ソリャはその戦う理由が壮大なものに思えて、現実感がわかないのだ。
霧の立ち込めるこの場所で、この先に何があるのかわからない不確かでつかみどころのない状態と似ているような気がする。
そんなとき、ぶんっ と何かを振るう音が耳に入る。ソリャは反射的に身構えた。
(こんな朝早くに誰だ…?しかもこんな霧が立ち込めているときに…)
ソリャもこの場にいるのだから、人のことは言えないのだが、ソリャは誰もいないと思って城の回りを散歩していたので、虚を突かれたのだ。
ソリャは足音を忍ばせて、そっとその音の主へと近づいていく。
「だれ?」
まさかこっそり近づいていたことがばれるとは思っていなかったので、ソリャは度肝を抜かれた。
緊張感を孕みながらも、凛としてひんやリとした空気を伝って、響く声。
この声はまさしくあの女剣士だった。
ソリャは気配を消すのを諦める。そして彼女に姿が見えるように二、三歩前へ出た。
(この状態ですぐ気づくとか、やっぱ武人なんだなぁ)
一目見ただけでは戦いとは無縁そうな美人だが、本当の彼女は、気高く、強い武人である。最初はソリャもその見た目との違いに、面喰らったことがあった。
「なんだ、ソリャだったのね。」
ハヨンがほっと息をついて、ソリャの方へ向けていた剣を下ろす。そして剣を鞘に収めた。
「ここで、何してんだ?」
「朝稽古よ。」
彼女らしいと言えば彼女らしい答えである。史上初の女剣士だとか、天才だとよく言われている彼女だが、ソリャにしてみれば人一倍努力家であることの方がすごいと前々からおもっていた思っていた。