第16章 白い霧
「そうよ、あんたがこの戦で活躍すれば、みんなはあんたを必要とするし、何があってもあんたを見捨てたりはしない。」
ムニルの言うことはもっともな言葉だが、ソリャはそれが気に入らない。それはあまりにも利己的な力の使い方であったし、互いに利用しあっているだけだからだ。
ソリャが眉根を寄せたのを見てムニルは彼の言わんとすることがわかったらしい。皮肉な笑みを浮かべる。
「不満なのはわかるわ。だけどね、人に好かれるっていうのは虚しいことを耐えることで生まれるこはあるわ。要するには媚を売るのと変わりはない。」
「そんな人間関係…っ!」
あったって虚しいじゃねぇか。
そうソリャは反論しようとしたが、ぐっとこらえた。
誰かに好かれたい。でも人と関わるのが怖い。そして打算のある人間関係は欲しくない。
(自分はあの街を出て、何か変わりてぇと思ったのに、一歩踏み出すのが怖い。そのくせ、やたら選り好みをして文句言ってる。)
そのまま黙り込んでしまったソリャを見ながら、ムニルはそっと口を開いた。
「ねぇ、ソリャ。たとえ最初がそういう歪な人間関係でもね、いつかはきちんと信頼しあえる仲になれることもあるのよ。だから、決してそういう始まりだったとしても、私はいいと思うの。ソリャが今回ここの人たちの力になったことで、話すきっかけが増えて、仲間意識が生まれて、そうやって信頼を築けていけたらいいんじゃないかって。」
「そんな…」
そんな方法で信頼を深めていけるのか。
ソリャは今までろくに人と関わってこなかったからか、信頼関係の築き方の話など無縁に等しい内容で、ムニルの考えが不思議でならなかった。
葛藤が多く、頭で整理するのに忙しい様子のソリャを見て、ムニルはしばらく彼が何か言うかと待っていたが、ソリャは言いたいことが上手くまとまらないようだった。
「どちらにしてもね、ソリャ。あんたはあの町でいろんなことから逃げてきた。ここでも何もしなかったら、何も始まらないわよ。…とりあえず私が思ってることは言ったから、後は自分で考えて。」
ムニルは優しい声でそう言って、その場を去っていった。