第16章 白い霧
「でも、俺はまだ自分のやりてぇこともよくわかんねぇし、ここの城の人たちの力になれるわけではねぇからなぁ」
もうすぐ始まる戦に、ソリャが参戦しなかったとしたら、彼らはどう思うだろう。
(今度は使えねぇやつって嫌われんのかな。)
そう心のなかで考えて、胸の辺りにひんやリと冷たい思いが広がっていく。
(また他人の目を気にしている。)
ソリャは沈みかけた自分の心を、慌ててひき止める
「ソリャ、人のことを気にすること自体は悪いことじゃない。自分のことを見つめ直すきっかけにもなるしね。でもね、あんたの場合はちょっと度が過ぎてるわ。」
「そんなこと…わかってる」
ちょうど考えていたことを見透かされたようにお小言を食らったので、ソリャはつい不機嫌な声になってしまう。そんな反抗期の弟のような態度のソリャを見ても、呆れてため息などをつかないのが彼の度量の広さが現れている。彼は相変わらず優雅に微笑みをたたえている。
「まぁ、あんたが他人の目が気になる理由も分からなくはないけど。」
なぜ彼はこんなにも人の機微に聡いのか。まるで占い師の前に座っているかのような気分である。それが少し居心地が悪いのは確かだが、口下手なソリャは、うまく言葉にできずとも気づいてくれるムニルといると、とてもほっとする。警戒しなくとも良い相手、楽に息ができる場所。そんな所は長い間ソリャにはなかった。
「なぁ、俺はどうすればいい?」
震えて線の細い、随分と弱気な声が出る。自身のことを情けないと思ったが、これしか術はないのだ。
ソリャはずっと人との関わりを避けてきた。わからないことは正直に言って頼って、知っていくことが大事なのだ。あの小さな街を出て、自分がどれほど弱く無知なのかを改めて知った。
ムニルはソリャのことを決して馬鹿にしない。だからこその甘えによる言動でもあったが。
「あんたは自分の力をもっと上手く使えば、どんどん変わった行けると思う。」
「自分の力ってのはまさか…」
ソリャの背に冷や汗が伝う。なるべく自分を曝け出さないように過ごし、人々が忌み嫌うこの力を使えと言うのか。