第3章 逃亡
「と言うわけで私がハヨンを背負う。幸い私は輿に乗っていたからお前たちより疲労はすくないのだ。」
とリョンヘは少し不満げなハヨンを背負う。その場にいた者は焦るが、先程の言葉を聞いた後では自分がやるとは言い出せなかった。
「せめて医者でもいたらな…」
リョンヘの呟きにハヨンははっとした。
「王子。私の知り合いに医者がいるのですが…」
「なんとそれは幸いしたな。しかしその者は…」
「心配ありません。彼は口の堅い人ですし、わけありの者が来ても何も言わないでしょう。」
ハヨンが幼い頃から何かと気にかけてくれた男。物静かで穏やかだが、人のためになら自分の事でもなげうつほど己の仕事に誇りをもつ人。
あまり巻き込みたくないが、今頼れる相手は限られている。
「…彼は王都でも外れの方に住んでいます。この山に添って東の方に行けば彼の家が…」
と言ったとき、周りの景色が一瞬揺らいで見えた。慌てて目を閉じる。少しして目を開けると、リョンヘは何事かと振り返っていた。
「大丈夫か」
「はい。申し訳ありません。少し目眩がして…」
やはり少しずつだが出血し続けているので、体に異常をきたしはじめた。このままでは命にかかわる。
「…できるだけ急ごう」
リョンヘが再び歩み始める。
「王子。」
「なんだセチャン。」
「いくら王都の外れだとしても、このまま行くと目立ってしまいます。ハヨンとその他負傷者と数人の引率者を連れて、二手に別れましょう。」
「それもそうだな。…それに龍もいるのでは余計に目立ってしまう」
静かに龍が鼻息を鳴らす。どうやら言葉がわかるらしい。特別な獣なのだからあり得るかもしれない。