第3章 逃亡
「だからこれ以上お前たちをむだ死にさせるわけにはいかない。だから私はお前たちが助かるならなんだってする。それに…私は今、あの王子リョンヘではない。ただの人、いやそれよりもっと悪い反逆者だ。」
「いや、王子それは…」
その言葉にセチャンが口を挟む。その動きをリョンヘはやんわりと制した。
「あれは不当なものだと言いたいのだろう?しかし城の様子を見ろ。あの場にいたほとんどの者は城の味方だ。もうあそこまで城の支配下にあるかぎり、町の者たちも我々が反逆者だと信じてしまうだろう。私はそもそも城でもあまり好かれていなかった。この事を鑑みればなおさらだ。」
あまりにも何気なく話された言葉に、ハヨンは胸が痛んだ。やはりリョンヘも城の者が何と言っていたのか知っていたのだ。人と言うのは聞きたくない言葉ほど聞こえてしまうものだ。リョンヘはどれほどその辛さに耐えたのだろう。
「私は今、リョンヤンの敵だ。そして私は王子の地位の正当性を失いはしたが、王子であった誇りは失わない。外道な道に入りはけしてしないし、臣下や民を誰一人見捨てたくはない。」
そしてリョンヘはハヨンの肩に手を置き、目線を合わせてこう言った。
「私はそのためなら何をすることも厭わないし、王子だから優先しろだの、王子だからお手を煩わせるわけにはいかないだのの言葉は聞き入れない。」
「王子…」
ハヨンはリョンヘのときの姿と、リョンのときの姿がようやく重なったように見えた。今まで考え方も雰囲気もまるで違っていると思っていたが、人に篤くなれるところや、人を惹き付けるところなどはやはり全く同じなのだ。