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華の剣士 2 四獣篇

第15章 駆け引き


まだ私はそこまで信用に足る人物ではないのかな…と少し寂しい気持ちになったこともあった。
しかし、ハヨン自身もこの気持ちには蓋をして主人として敬い、友として支える存在になると決めていたので、ここまでの執着はさすがに友としてでも範疇を越えていると思い、踏み込めていない。

「戦のとき、向こうは徴兵達をどう扱うのかが問題だな…。」

彼らを操らずに捨て駒として最前線に立たせるか、それとも全員を操って強い兵として一斉に進軍するか。

どちらにしろ罪のない民を犠牲にする方法なので忍びない。今回は相手を撤退させることが目的なので、操り、強い兵にされると、こちらにも大損害だ。

「俺はこの国の民を大事にしたいし、忍んで街に下りたとき、仲のいい連中もいた。本当は民からの犠牲は出したくない。でもな、王族として生まれてきた以上、俺は人間としての情を、切り離さなければならないことも知っている。それが誰に非難されてもな…。王都から出た日まで、こんなことはまだ先だと思っていた。けど、覚悟を決める…。たとえそれが修羅の道だとしても、この先の国のためなら…。俺はこの先、民が笑顔で過ごせる方を選ぶ。」


「リョン…」


彼は犠牲という言葉を何よりも嫌い、正義を愛する人間だと言うのを、ハヨンは今まで過ごしてきた中から自然と知っていた。
誰よりも民を愛し、穏やかな日々の大切さを知っている王子だと思う。その彼が、決断したことに、ハヨンは胸が痛かった。


リョンヘらは今、世間では反逆者とみなされ、悪い王子だと非難されている。
今、ここで民の犠牲を出さないようにするのなら、リョンヘはこの身を隠し、争いを避ければ良かっただろう。しかし、それでは真の反逆者の思うままに国を使われてしまう。
リョンヘはたとえこの戦いが長く苦しいものとなっても、勝利することで平和な国を取り戻していけると信じているのだ。


ハヨンはリョンヘが戦うと決めたときから、ずっと彼の側にいたが、今日のように、非難されても…と言うのは初めて聴いた。

きっとリョンヘのことだから、民のことについてはずっと悩んでいたはずだ。きっとどのような覚悟で自分は戦うのか、明確になるまで話せなかったのだろう。


リョンヘは始めの頃、民を巻き込みたくないと言っていた。しかしこの覚悟は、国の、民のためには民をも巻き込むという覚悟だ。



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