第15章 駆け引き
ハヨンは捕らえられている暗殺者の元を訪ねることとなった。尋問の役目を負っている二、三歳上の兵士の後を追いながら、ハヨンは尋問と言う言葉について考えていた。
(やっぱり王に遣える者は、敵の狙いとか知らなければならないことがたくさんある。尋問だってするとは思っていたけど…)
ハヨンは尋問では拳を振るうこともあると言う事実に、多少衝撃を受けていた。
(私もたしかに人と命をやり取りする仕事をしている。けど、私はこんなふうに剣を振るうつもりは毛頭ない…)
そんなことを考えていると、少し不愉快だった。周りの景色がぐにゃりと歪んで見えたように感じたが、すぐに元通りになった。
「ここだ。」
兵士は薄暗い部屋の鍵を開ける。中は狭い部屋だったが、特に血飛沫も生臭い臭いもしなかった。ここでは暴力は行われていないのだ、と思うとハヨンは少しほっとした。
誰かがこちらに背を向けて椅子に座っている。足枷はつけられていたが、それ以外は自由なようだった。
「この人がたしかな意思をもってリョンヘ様を狙ったと言う証拠も無いから、もう少し自由に過ごしてもらっても大丈夫だろうってなったんだ。」
ハヨンの拍子抜けた表情を見て、兵士が説明する。昨日の朝礼であんなにも重苦しく話していたので、もっと厳重に扱われていると思っていたが、違うようだ。
「やっぱり、誰かに操られていたんですか?」
「この人の話したこと全てが本当だったらあり得るだろうね。」
ハヨンは部屋に入り、男が腰かけている椅子へと向かった。ハヨンの足音を聞いてか、男の背筋は固く強張る。
「こんにちは。あの、私のこと見覚えありませんか?」
ハヨンは男の椅子の前にしゃがみこみ、わざと無防備な体勢になる。これは武人としてはあるまじき事態だ。目の前にいる相手によっては、蹴り放題だし、上から殴り放題な状態である。