第15章 駆け引き
「どうだ、奴は何か吐いたか?」
次の日、兵士全員での朝礼の時間に、セチャンは昨日の暗殺者の尋問を任せた部下に、そう尋ねた。
「…吐きません…。と言うよりも、なぜ自分がここにいるのかも全くわかっていないようでして…。」
おかしな話だが、ほとほと困り果てた様子の部下を見る限り、嘘のようには思えなかった。
「それは、奴の演技などではないのか?」
「それならば彼は大した役者です。彼曰く、彼は城に食料などを売る商人の元で働いていて、昨日も城に食料を運び込んでいたのだとか。その後記憶がなく、私達に連れ去られたのだと思っていてらむしろ私達が詰られているというおかしな状況に…。」
その場にいた一同は首をひねった。以前にもこのような話を聴いたことがあったからだ。セチャンも話を聴いてぴんときた。
「以前、宴会でヒチョル様(故国王。リョンヤンとリョンヘの父に当たる。)の暗殺未遂事件の時の実行者も似たような状況でしたよね。」
ハヨンがはっとなって思わず声をあげる。彼女はその折護衛役として暗殺者と刀を交えた。セチャンの所属は白虎ではないものの、国の一大事であったため、この事件の全容は全部隊に公開されていた。
それだ、とその場にいた者達はざわざわと口々に言う。
「以前にチェヨンさんがおっしゃっていたことを、みなさんは覚えていらっしゃいますか??」
ハヨンがそうセチャンに問いかけてくる。彼女の目はとても真剣で、何かに気づいたようだった。チェヨンとは、あの不思議な老婆のことだ。彼女はなぜか建国伝記に載っていない国の歴史のことに明るい。
「チェヨン殿が言っていたこと…。それは魔物に関することか?」
セチャンは数少ない、思い当たる節をハヨンに投げかける。彼女はそれに頷いた。
「チェヨンさんは以前、魔物は人を操ることができると仰っていました。そのせいで記憶が抜け落ちているのなら、辻褄が合いませんか?もし仮に暗殺者が捕まってしまっても、自分とは関わりの薄く、何も証言できない者を遣えば情報が漏れないのもありますし。」
セチャンはハヨンの言ったことをもう一度頭で繰り返した。様々な荒波に揉まれて生きてきたこの堅い頭は、ずいぶんと物理主義になっているからだ。