第15章 駆け引き
何か微かにでも妙な音がしないか、ハヨンは耳をそばだてる。
何者かが触れたら一瞬で糸がきれるような緊迫感が辺りを包む。
(今だ!)
ハヨンは二人に合図を送る。その瞬間、背後から矢が飛んできた。ハヨンは振り返りもせずに剣で凪ぎ払う。
一本、二本。
追撃するように矢がハヨンを追う。二人の背はもう遥か向こうだ。
(この暗殺者を捕らえなければ。捕らえたら何か有力な情報が引き出せるかもしれない…!!)
ハヨンは馬をくるりと後ろを向かせ、暗殺者が潜んでいる気に向かって走り出す轡に重心をかけ、馬の背を膝で挟むようにして立ち上がる。そして隠していた暗器を連続して二、三投げた。
同時にハヨンに向かって矢が放たれ、ハヨンはそれを腕の籠手で弾いた。
どさっと地面に何か落ちる音と、人の呻き声が聴こえる。木の根本に男が一人、うずくまっていた。肩、腕、腹に暗器が刺さってはいたが、ハヨンの暗器は針型ではなく、ヨウからもらった風車型の独特なもので、殺傷能力は低い。そして、暗殺者にしてはなぜか戦闘気力が削がれていたようなので、ありがたく捕縛した。
ハヨンは暗殺者をどのようにして連れ帰ろうかと暫し悩んだが、どうにか馬にもたせかけるように背中にのせ、ハヨンが馬をひく形でゆっくりと進み始めた。
すると、遠くから三、四人が馬に乗ってやって来る。助っ人を連れたリョンヘとセチャンだった。
「怪我はないか…!?」
合流した時、リョンヘがそう慌てたようにハヨンに尋ねる。
「はい、問題ありません。この通り元気です。」
ハヨンは笑顔でそう答えた。久々にリョンヘの役に立てたと思えたからだ。
「で、こいつが暗殺者か??」
怪我の割りにあんまり威勢がないな…。と服の上からの出血の様子を見ながら、セチャンが呟いた。
「す、すみません。もし仮に馬の上で暴れられたら面倒だと思って、肩を外しておいたんです。」
「!?」
さらりとハヨンの告げた内容は、彼女の可憐な声とは真逆なものだった。
たしかに、馬は繊細なので、驚かせれば暴れる可能性は高い。落馬や怪我の危険性を考慮したので、適切であったが、彼らが思う以上に、ハヨンはしたたかなのだった。