第14章 己の正体
「王を守る生き物にしろ何にしろ、俺は人を傷つけて、恐ろしい化け物だよ。それは動かねぇし、変わらねぇ。」
ソリャがそう言いながら己の手をじっと見つめ、何か感情を押さえ込むかのように、その手を握りしめる。ソリャの爪は、人よりも鋭く固い。そのような手を握り締めれば、傷ができるのは容易に想像できた。ハヨンは慌ててソリャの手を掴み、その固い拳を解く。
「…。私は、ソリャは昔してしまった過ちについて、十分に苦しんだから、もうこんなに引きずらなくていいと思う…。それに、ソリャはその相手にもずっと傷つけられて、他の人にも嫌われて過ごしてきた…。私はもう、そういうのから離れて生きても良いと思う。」
(ついこの前知り合った私に、こう言うことを言われても、説得力は無いかもしれない…)
ハヨンは黙って自分を見つめているソリャを見つめ返しながらはらはらした。ハヨンたちより幼く、髪も瞳も何もかもが白く儚げなソリャを見ていると、力になりたいという気持ちが沸き上がってくるのだ。その上、ソリャの心は酷く不安定で、脆いようにも思える。
「後悔は十分なんて限りはねぇよ。昔のことをやり直せねぇ限り、消えることなんてねぇ。」
そうソリャはぼそりと呟いた。辺りは静まり返り、気まずい沈黙がおりる。
「確かに、今までの町ではあんたは化け物で、元凶だったかも知れないね。」
「ちょ、ちょっと?」
その沈黙を破ったのは老婆だった。何を言い出すのかわからず、ムニルが嗜めるように声をあげたが、老婆はちらりと視線を向けただけで、再び話始めた。
「しかし、所変われば品変わる、という言葉があるだろう?まさにそれさ。人々が自分に向ける視線を変えることができる。しかし、その視線を変えるのは自分自身さ。自分自身が変わらないと、また以前と同じ存在になるのさ。そこが物とは違うところだ。」
「自分を変える…??」
ソリャはおうむ返しにそう言う。
「そうさ。人ってのはね、暗示にかかりやすい生き物なんだよ。その思い込みや暗示で、思っていなくても、それらしいことをしてしまう。まずは私は、後悔とかしがらみとかはどうでも良いから、自分を好きになることから始めた方が良いとおもうね。」