第14章 己の正体
「ソリャ。お前は自分が何者か知っているかい?」
ソリャは左右に首を振った。
「ならそうだね。建国伝記を読んだことはあるかい?」
「それは小さい頃に、物語として話を聴いたことがある。」
きっと孤児院の院長が読み聞かせたのだろう、とハヨンは予想する。
「そうかそうか。なら話が速いね。お前はその伝記に出てくる四獣の生まれ変わりなんだよ。」
老婆の言葉に、ソリャは目をぱちくりさせた。
「い、意味が分かんねぇな。そんな大層なもんなわけねぇし…。それに、四獣ってのは伝説なんだろ?」
怪しいと言わんばかりにソリャは老婆に疑いの眼差しを向ける。老婆は警戒心を剥き出しにしているソリャの姿を見て、面白そうに笑う。ハヨン達はこんなにも相手に警戒されると多少傷付くものなのだが、これは年の功によるものなのだろうか、と以前に何度もソリャに手酷く逃げられたハヨンは、ぼんやりとそんなことを考えた。
「いんや。それがいるんじゃよ。現にここにいるムニルの小僧も、四獣の1人じゃ。聞いてはおらんのか?」
小僧って何よ!と老婆に次いで、この場では一応年長者である彼が小さく抗議の声を上げる。
ソリャはというと、そんなムニルを食い入るように見ていた。どうやらそれらしい部分を探しているのだろう。
「前に背中の鱗は見せられたけど…。じゃあ何で同じ四獣でもこんなに見た目に差があるんだよ?ムニルは背中の鱗だけだけど、俺なんか手足も尻尾まで生えていやがる。」
ソリャの語気が荒いのは、もしかすると今まで容姿について人に蔑まれ続けたからかもしれない。こうして言葉の刃で、己の身を防ごうとしているのか。
暫しの間、部屋の中には沈黙が広がった。
「お前の姿は、わしが今まで見てきた四獣の中でも一番四獣に近い。それは、今この国が危機的状況に瀕しておるのと関わりがあるんじゃないかとわしは思う。四獣とは王に求められれば何としてでも力になるものじゃ。このことを見越していたんじゃないかのう。」
顎に手をやり、さすりながらどこかに視線を向けて、そう老婆は言う。
(何で四獣の姿とか知ってるんだろう…。それに、まるで何代もの四獣を見てきたかのような口ぶり…。人の年では限界があるんじゃ…。)
これはハヨンはしばしば老婆に対して持つ疑問だ。