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華の剣士 2 四獣篇

第13章 揺らぎ


辺りが橙色の光に包まれる頃、ハヨン達はようやく山のふもと付近にいる。寒い季節にも関わらず、高低差のきつい山道を走ったので、皆体力はそれほど消耗していないものの、汗まみれだった。


「もういやよ、私。こんなべとべとになって。帰ったらすぐに浴場に飛び込むわ!」


いつもはきっちりと服を着こなしているムニルが、服を少しはだけさせている。服からちらりと見えた首筋は汗が光っていた。


「そうだな、今日はみんなで浴場に直行しよう。俺もこんなに汗をかいたのは久々だ。」


「リョンはもはや、お風呂上がりみたいな髪の毛になってるね」


ハヨンはちらりと振り返ってリョンヘを見ると、そう言いながらくすくす笑った。いつもさらりとした空気を纏い、見た目も爽やかな好青年であるリョンヘが、こんなにびっしょりと汗をかいているのが新鮮で、面白かった。


「ソリャもきっと驚くぞ。あそこの街は他の街と比べても浴場の設備が整っているんだ。多分、蒙の町を牛耳っている豪商が、無類の風呂好きだからかも知れないが…。」


ハヨンも何度か町の浴場に行ったことがあるが、リョンヘの言う通りだった。以前ハヨンが母親と暮らしていた町の浴場の何倍も広かったのだ。
また、城の方でも仕事を終えるとすぐに眠気が襲ってくるので、城の簡易な風呂で烏の行水なんてこともざらにある。
立派な浴室は王族や貴族のみの特権なので見たことがなかった。蒙の城では、リョンヘが皆気にせず入れとは言っていたが、今までの習慣や、ハヨンを気遣って風呂に入るのを躊躇う者がいると申し訳ないので、相変わらず自室の簡易の風呂に入っている。


「風呂…。いつも川で水浴びしているから、そっちの方が馴れてるし、俺は川か池に行く。」

ソリャはそうぶっきらぼうに答えたが、どことなく視線が泳いでいたので、もしかすると少し困惑したのかもしれない。

物言いははっきりしているが、表情に出やすいたちのようなので、ハヨンはだんだんソリャの言い回しと本音はどう思っているのかを汲み取ることに慣れてきた。


「そうか…。じゃあまたあんたの気の向いたときで良い。一緒にまた浴場に行こう。」


リョンヘもソリャへの関わりかたを心得たようで、めげずにそう誘った。


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