第13章 揺らぎ
ハヨン達は一刻も早く蒙に戻るために、もくもくと山道を急いだ。
今は徒(かち)で移動しているが、今朝早くに、急ぎ迎えの早馬を四頭連れてくる旨をしたためた手紙を伝書鳩に託したので、山を抜ければ馬に乗れる。
人の足でも赤架から蒙まで一日かかるか、という距離なので、もう伝書鳩も蒙の城に着いている頃だろう。
「こっちの方が早いんだけど、どうする?」
先頭を歩いていたハヨンはそう言って一行を振り返る。ずいぶんと険しく、細い道のため、体力を削るかと思ったのだ。
「いや、大丈夫だ。今は一刻を争っているし、どんなに険しくとも近い方を選ぼう。」
リョンヘが即答する。やはり、みな体力が人並外れているので全く息を切らしていなかった。先程も高低差のきつい山道を走るようにして来たのに、みな散歩でもしているかのような雰囲気である。
「わかった。」
ハヨンはそう言いながら前を向き、再び進む。ハヨンも特に疲れや息苦しさは感じていなかったが、どうしても他の面々よりも息が荒い。
(どうしてだろう…この違いはどこから生まれてきたんだろう…?)
ハヨンは汗を拭いながら大きな岩を乗り越えた。
(幼い頃から男に混じって練習してきたから、ハヨンは女だから、体力が…とか、力が…とよく言われては来た。でも、そんなのを理由にしたくない。何か良い代替案を考えるか、鍛えないとな…。)
ハヨンはここ最近、執務に追われて朝の自主練習を中止したことがあったのを思い出した。また、赤架では目立つのは厳禁だったので、剣を鞘から抜くことさえ、ほとんどなかった。
(もっと早く起きよう。あと、剣を使えない日の鍛え方を考え直そう。)
そう心の中でこれからの城での生活について計画を立てる。もうしばらくすると戦が始まる。もっと精進せねばと己を鼓舞した。
初めて戦が始まると聴いたときは驚いたし、不安なことも沢山思い浮かんだが、なぜかハヨンは戦が怖いとは思わなかった。
(何でだろう…。むしろ前に戦を経験したような、そんな感覚がある。おかしいな。今回が初めてなのに、自分の実力を発揮する場だって興奮してる…)
ハヨンは思った以上に自分が落ち着いていることが不思議でならなかった。