第13章 揺らぎ
そしてジョンチャンは先程はあれほどに熱意を込めて訴えていたのに、一瞬で黙り混む。表情は打って変わり、虚ろなものだった。
「ご理解いただけたかな?アン殿。」
「…はい。あなた様の仰せのように」
そして訴えに来た際と同じように最敬礼をし、その場から立ち去った。
「人間とは何て弱いものだろう。私が心の臓を一突きしただけで、容易に僕(しもべ)と成り下がる…。」
男はそう言ってくすくすと笑いながら、ある部屋に向かって歩いていく。その途中で何度か咳き込んだ。そしてそのことが忌々しく、舌を打つ。
「やはり、ここまで多くの人間を操るのは愉快だが、少々堪えるな…。」
男は始めにリョンヘを王を弑虐した犯人に仕立てあげるため、数人の女官や臣下を操った。そして、その者達の証言を鵜呑みにした者達が次に他の者に伝え…とねずみ算のように噂が広がると踏んでいた。
実際多くの者が王はリョンヘによって暗殺されたと思っていたが、やはり聡い者や王族と近しい者は怪しむ。
男はそう言う危険因子や、民のために動き、男に服従しない者も操り始めた。そのせいで男が操る人間は城内の人間の4割を越えている状態なのだ。
(本当は王族や王子を操ってしまえば手っ取り早い。しかし忌々しいことに…)
男はほぞを噛む。そして目的の部屋にたどり着いたので、扉を開けた。そこには一人の青年が椅子に座っていた。やつれ、顔色は悪かったが、目だけは力強く光っている。
「今日はどうされたんです、イルウォン。」
リョンヤンが低く鋭い声でそう声をかけてきた。男はこの国の宰相で、リョンヤンの指南役を担っていたイルウォンだったのだ。
(王の血をひいているものには、私の術は効かない…。)
「いえいえ。今日こそはあの在処を教えて頂きたくてね。」
イルウォンはそう言いながらリョンヤンの座っている椅子に近づいた。彼の足には足枷がつけられ、それは椅子の脚に繋がれていた。
「あれは王と次の王となる者のみが在処を知っています。父上はまだ、私にするかリョンヘにするか決めていらっしゃらなかった…。そう何度も言ったでしょう?」
リョンヤンの鋭い眼差しがイルウォンを射抜いた