第13章 揺らぎ
〜王都の城内にて〜
「…様!!」
男は何者かに呼び止められ、振り向く。そこには青龍部隊のつまり、歩兵隊の参謀アン・ジョンチャンが立っていた。
「何だ。アン殿。」
「徴兵のことで相談したきことがございます!」
ジョンチャンは最敬礼をしながらそう言った。もうここの城では男が主なのだ。男はその快感に、心の中でにやりと笑う。
「申してみよ。」
「はっ、先日軍議で決定された兵糧では雑兵(徴兵された兵士)たちに十分行き渡らないことがわかりまして…。もう一度検討の場を設けていただきたく存じます。」
ジョンチャンは男を真っ直ぐ見つめながらそう言った。男は内心舌打ちをしたいほどに苛立っていた。
(この手の者は厄介だ…。国のために、城のためにと一直線で、私が思うようには動いてはくれぬ…。)
「アン殿。それは軍議の際に言ったであろう。これ以上増やせば長期戦になる場合、餓死する兵が多数出るから不可能だと。」
「しかし…!これでは先陣を切っていくこととなる雑兵達が、十分な食事を得られないために、犠牲となる雑兵達が出てしまいます…!」
男は深くため息を吐く。民のため、国のため、犠牲、こう言った言葉が、男は嫌いなのだ、
「ならばどうしろというのだ。この国は近年の日照りのせいで収穫量が少ない。民のためにと減税までして、国の食料庫にある分はせいぜい民が一年過ごせるかどうか、というかぎりぎりの状態。もしこの戦を終え、冬を越し来年も不作だったら…?もう雑兵どころの騒ぎではないだろう。」
男の言葉に、ジョンチャンはうなだれた。男はこう言ってはいるものの、建前であって本当は自分の身に何か起きた時のためにとっておきたいというのが本音であった。
「なら、こうすればいい。民たちから食料を調達するのだ。徴兵された家族の分をな。そうすれば雑兵たちの数と、家族が差し出した食事の分は同じで足りるはずだ。」
「し、しかし!それでは徴兵されて、食料も自身で負担する状況となり…!」
いつまでも男の思い通りにならず、反論し続けるジョンチャンに耐えきれず、男は耐えきれなかった。人差し指をジョンチャンの心の臓の辺りに当てる。呪術をかけたのだ。