第11章 起点
(この気持ちをはっきりさせるのは、もっと私がリョンへにとって頼れる人間になったら…。私が私をもっと自信を持てるようになったらにしよう。)
ハヨンはそうして先程の動揺を抑える。そして、リョンヘの方に向き直った。
「私達が戦っている間、白虎とはどうなったの?」
「ああ、白虎はとりあえず俺達に付いてくると言っていた…。ただ、居場所が無いからという口ぶりだったから、あんまり本心ではないんだろうな」
白虎はハヨン達のやり取りに入ってこず、所在なさげに立っていた。
「こんにちは…というか、もう今晩はね。私はハヨン。リョンへ様に使える者。やっと話せて嬉しいわ。これからよろしくね。」
ハヨンは白虎の前に手を差し出す。彼の手は、もう人間の手に戻っていた。彼は暫く黙ってハヨンをみていたが、差しのべられた手を握る。
「…ああ、よろしく。」
その声に覇気は一切無く、どことなく消沈していた。
(それもそうか。自分の意思とは関係なくリョンを助けて、町の人に一斉に敵意と殺意を向けられたんだし…。)
平穏にそして影で細々と生きようとしていた白虎には精神的にもかなり辛い展開だ。四獣たちは目の前で王族が危険な目に逢うと、無意識に助けに行ってしまうようになっている。白虎もやぐらが倒れる前までハヨンから逃げていたので、ちょうど見かけてしまったのだ。
(本人の意思に逆らってこう言う状態になってしまったのだし、白虎に申し訳ないな…)
ハヨンは罪悪感にも苛まれる。白虎の手は、寒さや過酷な生活のせいか、あかぎれや傷がたくさんついていた。きっと怪我をしていなければ、白く美しい手なのだろう。
ハヨンと白虎が握手を終えた途端、ムニルは白虎には抱きついた。
「ちょっと、え!?」
もっと繊細に扱って欲しかったハヨンは、戸惑いの声をあげる。
「初めまして!あら~綺麗なお肌ね!手入れをちゃんとしたら、きっと真珠みたいだわ~!私はムニルよ。貴方の兄弟みたいなものなの。よろしくね。」
ムニルの熱い抱擁に、白虎は声も出さずに固まっていた。そして暫くして、
「お、おう。よろしくな。」
とぼそりと呟いた。傷ついたとき、ムニルのようなあっけらかんとした態度の方が、救われる人もいるだろう。きっと彼はその部類だったのだ。