第11章 起点
「ハヨンちゃん、我を忘れてたのね…!いつもみたいに敬語じゃないし、王子に愛称までつけて呼んでたじゃない…!」
ムニルに指摘されて!ハヨンは青ざめた。
(あああ…!私の馬鹿!リョンのことは私とリョンへ様との秘密だったのに…!)
ハヨンはリョンヘの立場を危うくしないかと言うことと、自分のせいでリョンへと自分について何か勘繰られていることで申し訳なかった。ちらりとリョンヘに目を向けると、リョンへは呆然としているようにも見えた。
(それに我を忘れるほど、リョンへ様を慕っていると知られるのも恥ずかしい…!)
いつもリョンへに忠誠を尽くす姿勢は見せているものの、自分が取り乱すほどだと言うのを知られるのは照れくさかった。
「ああ、その事か。」
リョンへは呆然としていた表情からはにかむような笑顔に変わった。
「私はどうも堅苦しいのが苦手でね。二人のとき、ハヨンにはそう呼んでもらっていたんだ。」
リョンへはそう言ってリョンのことを誤魔化した。ハヨンはこれには少し意外だった。四獣であり、王と対等で、友人であるとこの国が始まった頃から決まっている相手であるムニルなら、真実を話すと思っていたのだ。
(リョンのことを話さないでいることに、私は何でこんなにも嬉しく思っているんだろう…。)
ハヨンはいつの間にか強まっているリョンへへの独占欲に心当たりが無く、内心首をかしげた。その時、リョンへがハヨンの手に軽く触れる。はっとして彼と目線を合わせると、しー と秘密だと言う合図を口の動きで伝えてきた。
ハヨンの頬に熱が帯びる。
(何でこんなに翻弄されているんだろう…)
ハヨンは何となく答えがわかりかけてはいたが、それをあえて考えないようにする。
(私は…。彼の部下だ。忠誠を誓ったんだ。)
今の自分では到底叶わぬ思いだと言うのを感じていた。
「堅苦しいのが嫌なら…。私達がいるときはその状態でいいわよね?」
「ああ、そうだな。ハヨン、これからはムニルといるときも普通に接してくれ。」
「…わかった。」
どことなくなれないような、それでいて懐かしい言葉遣いに、ハヨンはぎこちなかった。