第11章 起点
リョンへもハヨンとムニルの姿を見つけたらしく、すぐに立ち上がって、こちらに駆け寄ってきた。
「無事で良かった…。」
ぼそりと呟いて、ムニルとハヨンを両腕で抱き寄せる。ムニルの図体がいいので、ハヨンとムニルはリョンヘの腕の中に収まらず、少々息苦しい状態にはなっている。
ただリョンへはいつも、このように素直に恐怖や心配などを表すことが滅多にないので、二人はされるがままになっていた。
(リョンへ様は武道に秀でた人だ。そんな人が、部下を置いて逃げろと指示されるのは、嬉しくなかったんだろうな…。実際、最初は嫌がってたし。普段なら冷静に判断して白虎のことも視野に入れた動きをとれたはずだ。相変わらず心配性な人だ…)
ハヨンはそういったところが自身の主の魅力であり、愛しく思う所だが、一方で毎回心配していては心がもたないとも思った。
「リョンへ様。私達はこんなにも強いんですから、心配なさらずとも大丈夫ですよ。主なんですから、こきつかってやろうって気持ちで私達を使ってもらって構わないんです。」
ハヨンはそう冗談めかして言いながら、リョンヘの肩を叩く。
「ちょ、こき使われるなんて私はやぁよ!」
ムニルは焦ったようにハヨンに詰め寄る。しかし、ハヨンはそんなムニルをにやにやしながら受け流した。
「もう。でも、確かに私は伝説の青龍よ?そんなやわじゃないんだから、心配するのはお門違いってものよ。」
ムニルは少し鼻白んだような反応を見せてはいるが、それは照れ隠しだろう。
「…。そう、だな。ハヨンも立派な私の護衛役だし、ムニルも強い…。私はもっと頼ることにするよ。」
気を遣わせて悪かったな、とリョンへはハヨンの頬を撫でた。その時の表情は何だか泣き出しそうにも見えて、ハヨンはなぜこんな表情をしているのか察せず、戸惑った。
「そうよそうよ!ハヨンちゃん、あなたが色々危険な目にあってて、取り乱してたんだから。その上、ハヨンちゃんを困らせたら駄目なんだからね。」
リョンヘの言葉に、なぜかムニルがむきになって怒っている。
「え?」
ハヨンは自分がそんなにも取り乱している覚えがなく、間抜けな声が出てしまった。