第11章 起点
それは主への忠誠心が故の白虎への嫉妬なのかもしれない。しかし、今このような場所では雑念である。ハヨンは己を叱咤し、その感情を抑える。
(次に男の誰かが一歩でも動いたら…。次こそはリョンへ様のもとへ!)
ハヨンは男の動きから目を離すまいと、息を詰めてじっと身構える。
「お前は…。見たことがない顔だな。どこから来たんだ。」
男たちはリョンへに対しても警戒心丸出しである。
「俺はただの旅人だ。孟の方から来た。」
ただ、リョンへは旅人にしては少し身なりが良かったし、どこの訛りもない話し方だったので、どことなく胡散臭いのだろう。周りの男たちはひそひそとリョンへについて話始めた。
「何だか旅人らしくねぇな」
「ああ、どこかの金持ちの商人か?」
ハヨンはその時、白虎の丸太を支えている方の腕が、少し震えているのに気がついた。流石に限界なのだろう。そして白虎がもう片方の腕で持ち代えようと両手で持った瞬間、男は鬼のような形相で白虎を睨み付けた。
「動くなと言ったはずだろう…!?俺達に何かしようというのか!?」
もう、白虎が動くだけで何かされると思っているようだった。
(こんなんじゃ、白虎が誰とも関わらないのもうなずける。)
人々は白虎を恐れ、警戒するが、その姿を見て、白虎自身も人々を恐れるのだ。
「もう我慢の限界だ…!いつもいつも俺達の生活を脅かして…!こいつは早々にやっつけるべきだったんだ!おい、そこの男、こちらに早く来い。今からその化け物を退治するから邪魔だ。」
ハヨンは何度か見たことがあったが、ああいった目をしたものは、我を忘れており、少しの刺激で誰かを攻撃し始めるので、危険な状態である。
「悪いがそれには応じたくない。俺はこいつを殺してほしくないからな。」
一方のリョンへは、やけに落ち着いた声でそう答えた。
「何言ってんだお前…。こいつは化け物だぞ!?」
「さてはお前、この化け物の仲間か!」
「そうとなれば放ってはおけない…!」
男達は口々にそう言って、騒ぎ立てる。
「なら、お前もやっちまうしかねぇ…!この町の不幸の元凶をやっつけねぇと、俺達は一生このままだ!覚悟しろ…!」
そう男はリョンへに向かって叫んだのだった。