第11章 起点
「そんなにやぐらが気になるのかしら…?」
ムニルはそう言ってリョンヘの方へ歩き出す。
「珍しいのかもしれないね。」
ハヨンもそれに習ったが、なぜだか胸騒ぎがした。
(私は何にこんなに不安がっているんだろう…?)
ざわつく胸を、高鳴る鼓動を抑えようとハヨンは深呼吸した。
「ハヨンちゃん。」
その時、妙に鋭く低い声でムニルがハヨンに声をかける。一、二歩先を歩いていたムニルが立ち止まっている。
「どうしたの?」
「何か嫌な予感がするのよ…。」
ハヨンは眉を潜めた。この不安は、ハヨンだけが感じているのではないのだ。そして、この胸のざわつきは、以前にも感じたことがある。
冷たい北風が、ハヨンの頬に刺さる。
(これはもしかしたら…!)
ハヨンはリョンヘの方へ駆け出した。ムニルもその後を追う。
「リョン!」
ハヨンはそう大声で呼び止める。驚いたようにリョンへが振り向いたが遅かった。
やぐらが突然、骨組みの一部が折れて倒れてきたのだ。
(間に合え…!)
ハヨンの願いもむなしく、リョンヘに一本の太い骨組みが落ちてこようとしている。周囲にいた人たちは何かを叫んでいるが、助けに向かうものはいない。リョンへも足がすくんでいるのか、動かなかった。どちみち今動いても、他の骨組みにぶつかるだろう。
と、その時ハヨンの横を白い物が横切る。そして、リョンヘの上に落かけていた骨組みを、片手で投げ飛ばしたのだ。
そしてもう一本リョンヘの方へ倒れかかった骨組みを、片手で支える。その腕はもう、人の腕ではなかった。
白い虎の脚となっていたのだ。
その場にいた者は静まり返った。地面に落ちた骨組みが大きな音を立てる。その場にいた全員が驚愕の色を現した。
それはリョンヘを助けた白虎自身もだった。
白く鋭い爪が太陽の光を受け、鋭く光る。
そして先程までの沈黙が嘘のように、この町の人々は騒ぎだした。